About Tomoko Maeda

眞栄田とも子 プロフィール

Jewelry Artist / Metalworker


金属という素材の静かな表情を通して、「なぜ人は纏うのか」という問いを掘り下げるジュエリーアーティストです。

私は東京・墨田区に生まれ、北区で育ちました。
運動は苦手で、家で何かを作ることが好きな子供だったように思います。

金属との出会い

幼い頃、父の機械工場で鉄の板がみるみる形を変えていくのを間近に見て育ちました。
その記憶が、私の中に「形を生み出すこと」への憧れを植えつけたのだと思います。
手を動かしている時間がいちばん楽しく、思い描いたものが出来上がった瞬間に感じた“達成感”。
それが、創作の原体験でした。

のちに、自分の手の中で削り、曲げ、切りながら
重く硬い金属が少しずつ形を変えていく感覚に、強く惹かれていくのは自然なことでした。

美術の道を志す

幼いころの記憶でいまも鮮明なのは、絵を描いたり、粘土細工を作ったり、折り紙をしたりしていた時間です。
他のことはあまり覚えていないので、おそらくその頃から“作ること”が自分にとって自然な行為だったのだと思います。

高校受験の頃には「美術で生きていきたい」という気持ちが明確にありました。
けれども、美術系高校への進学は両親の猛反対に遭い、普通科に進むことになります。
それでも諦められず、高校2年のときに美大受験予備校に通いたいと願い出ました。
父は最後まで渋っていましたが、母が味方になってくれ、ようやく許可が下りました。

初めて予備校に通ったとき、私はやっと“自分の居場所”を見つけたような気がしました。
しかし、すぐにその世界の厳しさを知ることになります。
実力の差に落ち込む日々もありましたが、
「これが好き。私にはこれしかない」と信じて続けることで、道が開けていきました。

やがてご縁をいただき、東京藝術大学に進学しました。
金属の板を叩き、削り、磨きながら、自分の意志と素材の意志をすり合わせていく。
思い通りにならない時もありますが、素材の呼吸を感じながら手を進めると、
まるで金属が「いまなら動ける」と囁くように形を変えてくれる瞬間があります。
この“素材と呼吸を合わせる感覚”こそ、今の私の制作の根幹です。

創作の軌跡

卒業後は、大手メーカーで腕時計デザインを担当しました。
精密機械と造形が融合する時計の世界は、時間そのものを“形”としてデザインする仕事。
ここで学んだ「機能と詩性の共存」は、のちのジュエリー制作に深く影響を与えました。

独立後は、金属と向き合う日々の中で、
「人はなぜ身に纏いたいと感じるのか」という問いに取り組み続けています。
ジュエリーは単なる装飾ではなく、
身につける人の内側にある“静かなエネルギー”と共鳴する存在だと考えています。
私はそのエネルギーを形にするために、ジュエリーをつくっています。

アーティストとしては、「纏うことを欲する無意識」を軸に、
人の感情や記憶の奥に潜む“形にならないもの”を探り続けています。
作品は、見るものではなく“感じるもの”。
そこに宿るわずかな揺らぎや余白が、人の心を静かに動かすと信じています。

職人としては、煮色や色金など、日本の伝統的な金属技法に敬意を払い、
一つひとつの工程を手の感覚で仕上げています。
機械的な精度では生まれない“人の手のゆらぎ”を大切にし、
素材が持つ自然な表情を引き出すために、磨きすぎず、削りすぎず、
金属が語りかけてくる声に耳を澄ませながら制作を続けています。

私の作品づくりの根底には、
「静けさの中にある力」への確信があります。
その静けさこそが、人がジュエリーを身に纏いたいと感じる無意識の衝動を呼び起こす。
そう信じて、今日も金属と向き合っています。

作品について

私の作品は、テーマや制作の目的ごとにいくつかのコレクションに分かれています。

Tomoko Maeda
アートジュエリー作家として創作する、思考と感性の実験的なコンテンポラリージュエリー。

KELEN
哲学・素材・技術のすべてにこだわり、静けさの中にある力をかたちにするジュエリーライン。探求するテーマ別にいくつかのラインに分かれています。

Asha
日本や世界に伝わる伝統文様に宿る祈りや美意識を、現代の造形として再解釈するシリーズ。

CROQUIS
感性が動いた瞬間を、そのまま形に留めるスケッチのようなアートジュエリーライン。

Bespoke
身につける人との対話から物語を紡ぎ出す、オーダーメイドジュエリー。

どのコレクションも、私にとってかけがえのない世界の一部です。


経歴

1992年 東京藝術大学 美術学部 工芸科 彫金専攻卒業
1992年 大手メーカー入社
1993年 会社に勤めながら自宅でジュエリー制作を開始
2002年 個人事業として独立
2009年 ケレン株式会社 設立・代表取締役
現在に至る