Artist Statement
私の作品づくりの根底には、「人はなぜ身に纏うのか?」という問いがあります。
それは、美しさの追求でも、自己表現でも、身を守るためでもあるかもしれません。
けれどそのいずれでも答えきれない、もっと根源的な“衝動”のようなものがあるように思うのです。
植物の世界には、目的や合理性では説明しきれないほどの多様性が広がっています。
その背景には、生存戦略だけでなく、偶然の積み重ねによる変化――進化生物学で「中立理論」と呼ばれる視点――があることを知ったとき、
私は「纏う」という行為にも似たような層があるのではないかと感じました。
人が何かを纏うとき、
それは時に理由があるようで、実は「なんとなく」選ばれたものだったりします。
なぜその服を選ぶのか、なぜそのジュエリーを身につけるのか――
機能や美意識を超えた、“偶然”や“無意識”が動機となっていることもあるのです。
私はジュエリーという身体に最も近いアートフォームを通して、
意味のある装飾と、意味のない衝動のあいだにある“あわい”を表現します。
それは、「なぜ纏うのか?」という問いに対して、
「理由がないからこそ纏う」――という、逆説的な人間らしさを浮かび上がらせる試みでもあります。
すべてが意味で埋め尽くされた世界ではなく、
“意味のなさ”もまた存在の一部として受け入れる。
その視点から生まれるジュエリーに、
「纏うこと」の本質が、静かに潜んでいるのかもしれません。
2025年5月 眞栄田 とも子